私のいとおしい残念な男達


「………あっそぅ」


静かに、頭の上からその低い声が身体中に響いた


「え……?」


聞き間違えたかもと、瞼だけ上に上げた


いつもなら、罵声怒声が飛んでくるはずなのに

「…………」


見上げた黒木の瞳は視線を逸らし、冷たいままだった

「しつこく電話して悪かったな……」

ぼそりと呟くようにそう言った

「え?」

なに?

ゆっくりと、目の前の黒木に自分から思わず手を伸ばしたのに、それを躱すように身体を翻された


「じゃ、飯まだだから行くわ」


視線さえ合わせないまま、凭れていた扉からスッと出て行った



「………………」




黒木が出て行った扉を続けて開けると、そのすぐ近くから奴を呼び止める黄色い声が響いた


「黒木さぁん、こんなとこにいたぁ〜」


既に向こうの方まで行った黒木が、その黄色い声に振り向いたのを見て

扉を開けたまま、つい内側に隠れた



「明日から出張ですよね、京都」


嬉しそうに声を弾ませる女子社員のそのテンションに胸が掴まれるようだった

………京都?


「どうしても買ってきて欲しいものがあるんですぅ」


二人の会話に、否応なしに聞き耳をたてる


「煩い、仕事で行くんだ。そんな暇ある訳ないだろっ」

迷惑そうな黒木の声がする

「え〜、でも今回のスケジュールは比較的余裕あるじゃないですかぁ」


彼女が何を頼んだのかはわからないが、かなり面倒くさそうに対応している黒木



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