私のいとおしい残念な男達

携帯ライトのあたる彼の口角が、微妙な甲を描く

「七瀬さんって、あの七瀬さんだろ?
ほら覚えてる?い・の・う・えって奴に目を着けられてた事」


「………っ!」

その言葉に、背筋が一瞬で氷つくように身体中鳥肌がたった

どうやらこの人、あの井ノ上さんの同期で、よくつるんでいた1人らしい


「あいつ、いきなりいなくなったからどうなったのかと思ったんだけど、聞かせてくれない?」

しゃがみ込んで固まる私の前に、同じように膝をつき顔を近づけてきた

「………あいつにヤられた?」


「っ!!!」


思い出したくもない事を曝け出されたように詰め寄られ、もはや拒否出来ないほどの恐怖に駆られた


「ハハッ、でも僕は大丈夫だよ何にもしないから、取り敢えず下に行こう」

「い……っ!」

嫌だとはっきりと言ってやりたいのに、硬直した身体がのどを詰まらせ、震える手先まで冷たくなっていく

「そうだ、この後どこか行かない?まだ早い時間だし、ご飯でも……あ、なんか可愛い格好してるね」

黙り込む私をいい事に、ペラペラと勝手に話し、パーティーに行くための格好をライトを傾けながら見回してきた

伸ばされた手から逃れたいのに、もう目を瞑り固まった身体を引く事もできない

………この人

イヤだ

なんでもいいからお願い、どこかに行ってぇっ




「小夏、悪い遅くなった」



バタバタと足音が近づいてきた後
どこから聞こえてきたのか暗くて分からない

その声に、さっきまでの私の恐怖心が一瞬にして解放された


「く、ろき……?」

聞き覚えのあるその声を探す

どこからしたのかと顔を上げると、近づきながら呆れた溜め息交じりの叱責が落ちてきた


「本当バカだろお前は……」


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