私のいとおしい残念な男達
最終電車に間に合うだろうか
黒木が走って行ったもう姿の見えない夜道を眺めて思う
さっきまで指先が絡んでたのに、それがなくなると途端に寂しくなるとか……
もう、重症じゃん
結局、いつの間にか黒木のペースに流されたんじゃないかと思いながら、胸の中は浮かれるようにフワフワと落ち着かなくなっている
もう一度、目の前に差し出された長くてゴツゴツした黒木の小指と、その真剣な眼差しを思い出してつい「ふふっ」と失笑してしまう
でもフッと、家に入るため黒木が帰った駅の方向に背を向けると、少しだけ後ろを引っ張られるような不安を感じた
「…………あ」
もう家族は寝室にいるだろうと、静かに玄関のドアを開け階段へ差し掛かろうとした時、タイミング悪く寝室へ向かう父親に出くわしてしまった
「た、だだいま………」
すでに11時を過ぎている
まあこの歳で門限もないが、昔は程々にうるさく帰りが遅いと言われていた時もあった手前、こうして飲んで遅くなると、なんだか気不味い
「遅かったな、こんな時間になるなら駅まで迎えに行ったのに」
「あ、ううん。大丈夫、ここまで送ってもらったから」
「………そうか」
「…………」
静かに方向を変え、パジャマ姿でペタペタと裸足の足音を立てて寝室に向かう父親
「あ、お父さん………」
なぜ、そこで呼び止めたのか自分でも分からない