私のいとおしい残念な男達
『実は別れた七瀬さんを迎えにきたんじゃないかって噂で聞いたし………』
なんの根拠もないただの噂だ
今のあの二人に、そんな心配はないだろう
と、思うが
まず、本当に今日桐生さんが帰省していて会社に来ているのかを確かめなくては………
黒木さんに連絡するのはその後がいいだろう
七瀬さんも自分の部署へと降りていき、一息ついて海外事業部へ行ってみた
覗いてみたがそれらしい人物は見当たらないみたいだ
やっぱりガセネタか………?
方向を変え仕事に戻るために、エレベーターへ
「あ………っ」
開いたエレベーターの中から出て来た桐生さん
いるじゃん、しかも今来たっぽい
俺に気がついた桐生さん
「阿部君?あれ、海外部に移動した?」
「いえ、諸用で……お久し振りです桐生さん」
柔らかな笑顔と、やっぱり貫禄のあるオーラ
黒木さんとは違った仕事に対する忠実性を醸しだしていて、一つしか歳が違わないなんてとても思えない人だ
「桐生さんは、直通ですか?」
ゆっくり来たとは思えない、空港から直接会社に来たんだろう
「ああ、全く人使いが荒いねこの会社は」
「………黒木さんも今会議中で、その後すぐに外へ行ってしまうので、今日は会えないかもしれませんね」
お互い忙しければ揉めることもないだろう
が
やっぱり、今のタイミングでこの人を二人に会わせたくないと思ってしまう
「そう、波留も忙しいんだね」