私のいとおしい残念な男達

「へぇ………じゃあやっぱり今週末も残業休日出勤だったりするんだね」


「いえ、黒木さん今週は明日の金曜日のためにずっと頑張ってたんで明日は………」

つい、口をすべらせてしまった

「明日は?」


「明日はー………」


………ヤバい、明日は七瀬さんとのデートだからって言ってたんだ
そのために仕事、今週頑張って調整してたんだった

「明日は波留、空いてるんだ」


「いえ、空いてはないと………思います」


語尾に自信なく声を落とす俺に、桐生さんが微妙に目を細めた


「予定って?」

「…………」

黙り込んだ俺にさらなる誘惑を持ちかける

「チョコレート、もう一個奥さんの分も持ってく?」

「……………っ」


もう一個のチョコレートの箱が差し出された瞬間、桐生さんがその質問を投げかけてきた

「ねぇ、阿部君」


「………はい?」




「波留と小夏って、いつから付き合い始めたんだろう?」



「え……っ」

俺の手に、ウチの奥さんが「一度は食べてみたい」なんて言っていたチョコレートがもう一個渡されて、その箱の先にある桐生さんのその手が離れていく

「それは………」


「最近?」

ジッと見つめられる真っ直ぐな目と、手の中のチョコレートを前に、誤魔化すことは出来ない


「はい………先週のNo残業Dayからだと思います」



「へぇ、そうだったんだ………」


相変わらず柔らかい笑顔でニッコリとする桐生さんの前でチョコレートを二箱持ったまま、動けない俺


え、今俺、もしかして買収された?

「あの………桐生さん?」


まさか本当に桐生さんって、七瀬さんとやり直すつもりで帰ってきた?


そっと俺の肩に手を乗せた桐生さんが耳元に口を寄せてきて


「波留はいいな、仕事以外でもこうして気に止めてくれる同僚がいて、羨ましいよ」


そう言って、もう一度顔を上げた俺にずっと変わらない笑顔を見せた


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