私のいとおしい残念な男達


「おいっ」

冗談じゃねぇ、このままじゃ帰ろうとしてるのがバレちまうっ


ただ、改めて抱きとめると結構いい感じの身体つきで、俺の胸のうえにおさまった肩と髪を分けて見えた頸(うなじ)に、

こんな時だが、思わず欲情した


「シィッ〜〜」


倒れたまま顔を上げたその女が、キツイ色の口紅をつけた唇に、人差し指を立てた


「は?」


「会社のしとぉがいるけどぉ、もぉう帰りたいからぁ……」

会社の人?

「いこぉ………」


「っ!!」

なんだ、こいつ誘ってんのか?


とりあえずこいつの荷物を鞄に戻し、腕を引き立ち上げた

その時拾いあげた荷物の中で、ふと見覚えのある口紅ケースが目についた

この化粧品、確か企画内容にあったフランスコスメのデザインケースに似てる………か?


ただ、企画書の中には日本での知名度はないし、原地でしか売ってないものだとあったが

まがい物か?


確認して分かる事でもないが、徐にその女の顔を引き上げ口紅のついた唇を覗き込んだ

たしかange (オンジュ)だったか、その会社の資料に口紅をつけたモデルの写真があったはず

日本人にはなじみのないキツイ色に、キツめのローズの匂いを、合作により日本人よりの新ブランドを立ち上げた広告企画

新人の俺たちにも、試しに企画案を出してみろと、膨大な資料と共に投げ出された案件だ


やっばりこれ、あの企画元の会社の口紅だ

日本人で持ってる人はほとんどいないなんて聞いていたが………

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