私のいとおしい残念な男達


「待っててぇね………」

その女の顔を引き上げ、唇を見ていただけだが、酔って頰を赤らめトロンとした目で見つめ返され、呂律の回らない声に

どうしようもなく胸が騒いだ


「ぁっ?」

立ち上がったまま、俺から離れすぐ近くにあった女子トイレに入って行った


今………待てって言ったよなぁ、待つか……?

バカみたいな期待に胸膨らませていた俺



「黒木、次カラオケだっていくぞっ!」


「はぁっ?!」


帰るつもりで抜け出したはずの飲み会の同期メンバーがガッツリと腕を掴んで、元の飲み会の席に引き戻された

「いや、俺はちょっと用事がっ」

なんだよっ、せっかく………

待ってろと言われた女子トイレから離されていく


「パスは無理だぜ。ちょうど今、他の部署と合流して、お前そこの奴らからご指名受けてるから」


「なんだよそれっ」


「うちの会社の他の部署がここで飲み会してたのを、お前をエサに先輩が声かけたらしい。女子の多い総務部と経理部だ」

強制的にズルズルと引き摺られて行かされた




結局、それだけだった

もしかしてと思って、暫くその飲み会をした居酒屋にも通ったが会える事はなかった


『会社のしとぉがいるけどぉ、もぉう帰りたいからぁ……』と、そんな事を言った女


もしかして、合流した部署のメンバーだったかもしれないと、一応社内でも探してみた


総務部と経理部だったか


が、それらしい人物は見当たらなかった



◆◇◆◇
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