風に舞う花びら

えーっと。
いいのだろうか。
放課後に女の子と二人で部活動見学だなんて…。
しかも、相手はクラス一の美少女(木村ランキング）なのに。
「…くん」
どうしよう。かなり緊張してきた。
「…木村くん？」
「へ？あ、ごめん…！」
「どうかした？」
「い、いや何でもない…」
「そうなの。私ね、できれば文化部に入りたいの。運動は苦手だから…」
「僕も、その方がいいかも」
そんなぎこちない会話を交わしながら校内を歩いていると、どこからか美しいヴァイオリンの音色が聞こえてきた。
「まぁ…きれいな音ね」
そう言う彼女の足が、自然と聞こえてくるヴァイオリンの音の方に動く。
そうしてたどり着いたのは、オーケストラ部のホールだった。僕たちは重たいホールの扉を少しずつ開いてそっと中に入った。
瞬間、美しいショパンの『ノクターン』がホール全体に響き渡るのを感じた。
隣を見ると、夏川さんが目を輝かしながらオーケストラ部の演奏を聞いていた。その姿に僕の心も自然と和んだ。
『ノクターン』が終わると夏川さんが涙を流して言った。
「…素敵ね…」
この人はよほど感受性が豊かなのだろう。本を読んで泣いたり、音楽を聞いて泣いたり、普通の人ならここまで深く何かを感じ取ることもできない。
僕がそんなことを考えていると、オーケストラ部の一人で右手にフルートを持った先輩がこちらに歩いてきた。
「あなたたち、新入部員？」
「あ、い、いや、見学なん――」
「そう！じゃあ入部してくれるのねっ！ありがとう」
「え、ちょ、ちょっと待ってください！」
僕の必死の抗議も聞かず、その人に僕と夏川さんは手を引かれて。
僕たちは強引にオーケストラ部（以下オケ部）に入部させられることになった。