風に舞う花びら
「私、ヴァイオリンやってみたいな」
僕たちがオケ部に半ば強制的に入部させられてから一週間。本格的に新入部員も一緒に部活が始まった。オケ部は1∼3年生合わせておよそ100人くらいいる大型の部活だ。そんな中、僕たち1年生の楽器は今日決まることになっている。
僕は楽器経験は小さいころピアノをやっていたくらいで、他には何もない。だからべつに、特別やりたい楽器があるわけでもなかった。けれど、夏川さんはヴァイオリンがやりたいのだとずっと言っていた。そして、運命の担当楽器発表の日。
「――以上がヴィオラ担当です。次にヴァイオリン担当は…」
3年生の先輩が順に1年生の名前を読み上げてゆく。夏川さんは両手を合わせて祈っているみたいだった。淡々としゃべり続ける先輩。そしてその中に、夏川さんの名前は―――なかった。

僕と夏川さんが担当することになったのはクラリネットという木管楽器だった。
夏川さんは、クラリネットのところで名前を呼ばれた時、悲しそうな顔をしていた。その「悲しい」はクラリネットが嫌だというようなものではなく、もっと別の理由があるがゆえの表情であるように思われたが、僕はその理由をずっと後で知ることになる…。
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