哭く花

階段を下り、浴室へ向かうと、

湯船に張った水が、音をたてていた。

すりガラスの扉の向こうに、大きな背中が見えた。

「せ、先生、入っていいですか」

その背中の影すら見ることが出来ず、

扉を背にして先生に声をかけた。

「どうぞ」

少しの沈黙のあと、穏やかな声が浴室に響いた。

私はゆっくりと丁寧に、身につけた布を取り、

クローゼットから持ってきた大きめのバスタオルを体に巻き付けた。

バスタオルを握る手が震える。

1歩1歩、扉へと進む足は、地を踏んでいない心地だった。

扉に手をかけ、深く息を吸い、手に力を込める。

ゆっくりと引き戸を開けて、恐る恐る中を覗くと、

先生は浴槽の中で、ミントの香りに包まれて鼻歌を歌っていた。
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