哭く花
お湯を沸かし直した後で、
ふう、と浴槽に腰を落ち着けると、
「ありがとう」
落ち着いた先生の声が響いた。
「う、ううんどうしたしまして」
響きもしないほど小さな声で答えるしかできない自分が情けなかった。
「先生は昔ね」
そこまで言うと先生は、
私の腰を後ろから抱き寄せて、
そのまま自分の方へと引いた。
頭の上に、先生の吐息がかかる。
「小さい頃何かあったら、いつもこうやってお袋と風呂に入ってた」
「お袋に話を聞いてもらうと何故か元気になったんだよ」
だから、美岬ともそうしてみようと思って、
と優しい声の主が微笑んだ。
しかしすぐに先生は、
でも、と付け足して
「違う気が起きそうで迷ったんだけど」
と、今度はふっ、と吐き出すように笑った。
「っ!!!」
きゅっとたくましい腕がさらに腰を締め付けた。
顔が熱くなる。瞬間に、私はお湯の熱さのせいにした。
その私の焦りように、先生はぱっと手を離して、はははっと笑った。
「大丈夫、そんなこと、しないから」
好きなところにいればいいさ
そこまで言った先生は、また、鼻歌を歌い始めた。