記憶の中の彼


だが中2の冬に陸がいなくなって以来、自分のどこかにぽっかりと穴が開いている。

その小さな穴に時節隙間風が吹いてきて寒く、さびしく感じる。

わたしは大切な人を失うのが怖くなり、中々友人をつくれなくなったのだ。

自ら人と一定の距離を置いた。さすがに寂しくなったころには、すでに友人の作り方がわからなくなっていた。

そのうち諦めの気持ちが出てきて、人への関心が薄れていった。

そんなわたしの殻を多少なりとも破ってくれたのが、美希だ。

第二外国語に選択したドイツ語の初日の授業で「隣いいですか?」と声をかけてきたのだ。


わたしはやはり他者への壁を壊せずにいた。

ほとんどの人は諦めて声をかけなくなるのだが、美希は違った。

決してしつこくはしないのだが、定期的に声をかけてくるのだ。

「ご飯を一緒に食べようよ」だとか、「気が向いたらいつでも連絡してよ」と言うのだ。

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