記憶の中の彼
「本日から入ります遠藤咲良と申します。よろしくお願いいたします」
ぱっと顔をあげたところではっとした。
その人は昨日すれ違った人だった。
「陸?」
つい声を出してしまった。
「片瀬歩です。よろしくお願いいたします」
片瀬歩・・・。
なんだ、名前が違う。
別人だったのだ。
初めからわかってはいたものの、わたしはがっくりと肩を落とした。
何より陸はすごく優しい目をしていたが、目の前のこの人の目は少々鋭く、また疲れても見える。
まるで何かに怯えていることを隠すために虚勢を張って肩に力を入れて生きているような。
そして態度も陸のものとは全く違い、そっけない。
しかし、どう見ても陸なのだ。五年間たっているとはいえ、顔立ちははっきりと以前の面影がある。
いや、陸であるはずがないのに。