記憶の中の彼


消防車は家から4軒先にとまっていた。
 
わたしはその状況を即座に飲み込むことが出来なかった。

いや、自分の心の中のブレーキのようなものがかかって、目の前の光景を理解することを拒否していた。
 
燃えさかるその家は陸の家だった。

「り・・・く・・・」
 
わたしは声にならない叫びを上げ続けていた。

ゆらゆらと揺れる炎を見ながら、揺れているのは炎なのか自分なのかが分からなかった。

視界がぐらぐらと傾いた。陸、陸、陸・・・。
 
 


「咲良、お待たせ」
 
美希に呼ばれて我に返った。
 
ああ、また思い出してしまった。

わたしが中学二年だった約五年前、小学校からの同級生であった一之瀬陸の自宅が放火された。

自宅は全焼し、大人二人と子供一人の遺体が発見された。
 
二人の大人は陸の両親、子供は陸と確認された。
 
 


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