記憶の中の彼
Lie


風に乗って秋の香りが漂ってきた。

以前友人に話したところ不思議そうに笑われたのだが、私はそれぞれの季節のにおいがわかると思う。

まだまだ暑い日が続いてはいるものの、9月に入り少しずつ秋らしさがでてきたようである。

なぜか夏休み中に奨学金継続手続きの書類を取りに行く日が設定されていたため、約1か月ぶりに学校の校門をくぐった。

やはり授業がない時期であるので、人はまばらである。

学校から3駅のところに住むわたしはまだ良いのだが、そうでない人間にとっては極めて煩わしいことであるはずだ。

学内のメールで確認した館へ向かいとぼとぼと歩く。

そして顔を上げて前方を見て驚いた。視線の先には片瀬歩がいたのである。

わたしと同じ方向に向かっている。

同じ大学だったのか。

こちらに背を向けているが、彼に間違いないと確信した。
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