記憶の中の彼
「ではお名前と生年月日をお伺いしてもよろしいですか」
よかった。彼は書類を受け取ることができるみたいだ。
「はい。片瀬歩です。19△△年9月20日生まれです」
わたしは自分の耳を疑った。だが全神経が前方に集中していたため聞き間違いではないはずだ。
9月20日、つまりわたしと陸の誕生日。
彼がわたしに教えた誕生日は嘘だったのだ。
彼はなぜわたしに嘘をついたのだろうか。
ただ単にろくに会話をしたことのない者になど誕生日を教えたくないと思ったのか。
だがおそらく彼は、それならそうとこちらに伝える、あるいは答えないといった対応をとる人であると思う。
わざわざ違う日をわたしに教えた理由は何か考えがある、もしくは事情があってのことなのではないか・・・。