記憶の中の彼


授業が終了するとすぐさま美希と共に学食へ向かった。授業後に学食に行く約束をしていたのだ。

私はあんかけ丼、美希はカレーをプレートにのせて長テーブルまで近づいたそのとき、私の前にいる美希がふいにあっと小さくつぶやいた。

「隆」

美希は目の前に座っている男子生徒と知り合いであるようだ。

「ああ、美希。こっち来る?」

にこっとする彼は人懐っこい犬みたいだ。

美希は私に「いい?」と断りを入れ彼の隣に座ろうとした。

それによって、美希に隠れて見えなかったこちらに背を向けるかたちで彼の向かいに座っている人があらわになった。

そこにいたのはなんと片瀬歩だった。

動作がフリーズしかけた私だったが、よく考えれば同じ学校に通う生徒が食堂で顔を合わせることなど不思議ではない。
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