記憶の中の彼


美希が隆君の隣に座ったため私は片瀬さんの隣の席に座ることになった。

相変わらず表情に乏しい片瀬さんだが、席いいですかと聞けばどうぞと一言返事をくれた。

「経済学部1年の吉田隆です」

隆君はそう名乗りながら私の顔をまじまじと見ている。

「何か、顔に付いています?」

 自分の顔を指さしながら恐る恐る聞く。

「いや、知り合いに似ていて。失礼だったね、ごめんなさい」

「それなら良かったです。私も経済学部1年で遠藤咲良です。私片瀬さんとはバイト先が一緒なんです」

そう言うと美希は意外そうな顔をした。

それもそうである。

片瀬さんとわたしは、今日顔を合わせてから互いにまったくの無反応で、「席いいですか」意外に会話を交わしていなかったのだ。
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