記憶の中の彼


「そう、その人が片瀬さん」

話し終わると二人してふーっと長いため息をついてしまった。

「なるほど。咲良ちゃんの同級生だった陸君と歩がそっくりだったということか」

隆君は私の話を判断しかねているように考えこんでいる。

「そうなの。他人の空似だって何度も自分に言い聞かせてきたけれど、今でも片瀬さんは陸なんじゃないかと考えてしまうの。あのさ、片瀬さんの誕生日って9月20日だよね?」

「うん、そう。歩の誕生日はちゃんと覚えている。それが何か?」

「うん、陸と私の誕生日と同じなの。たまたま片瀬さんの誕生日を知ったんだけど、わたしがその前に本人に聞いたときは嘘をつかれたの。単純にわたしに教えたくなかったのかもしれないけど」

「あゆむはもし教えたくないならそう答えると思う。今咲良ちゃんの話を聞いてみて何ともいえない気分になっている。あゆむはさ、昔のこととか家族のことを全然話さないんだよ。だからあゆむが陸君ではないなんて断言はできない」
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