記憶の中の彼
「次はどこに行こうか」
「咲良は行きたいところある?」
「うーん、わたしは特にないよ」
「そうだ、財布を見たいな。まだ買わないと思うけれど」
「オッケー。行こう」
かばんがある店を目指して歩く。
そのときふと、すれ違った人を振り返った。
しかしその人はたちまち雑踏の中へ消えて行ってしまった。
まさかね、陸がいるはずない。陸に会うはずがないことは理解しているはずであるのに、たった今見た人が脳裏にちらついた。
なぜ陸だなんて思ったのだろうか。
「咲良、どうかしたの?」
美希が挙動不審にあたりを見回す私に気づいたようだ。
「なんでもない」
わたしはとっさに言い訳することができず、笑ってごまかした。