記憶の中の彼


わたし何か怒らせることをしたのかしら。

普段にまして冷たい。完全に拒絶されてしまった。

なぜこんなにももやもやとした気分なのだろうか。彼のことが気になって仕方がないのだ。

「ねえ、本当に大丈夫なの?」

「大丈夫、大丈夫」

隆君はにっと笑う。

一緒に行こうと半ば強引に誘われ片瀬さんの住むアパートまで来てしまった。

片瀬さんの家はわたしの家から徒歩15分程度のところにあったことに驚いた。

この状況はかなりまずいのではないか。

自宅に押し掛けるなどストーカーと思われても仕方がない。

隆君は躊躇せずチャイムを鳴らした。

がちゃっと音を立ててドアが開き、チェーンをかけたまま片瀬さんが顔をのぞかせた。

「来ちゃった。入・れ・て」

隆君は妙に可愛らしくお願いしている。
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