記憶の中の彼


大きな温かい手がわたしの頭をそっとなでる。ああ、懐かしい、懐かしい陸の手だ。

「なんで現れるんだよ」

あれ、声が低いな。

軽く前髪を持ち上げられた額、そして頬に柔らかな感触がする。

ぱちっと目を開けるとすぐそばに片瀬さんが座っていた。今のはいったい・・・。

「大丈夫?」

とげとげしさはない話し方、しかし平然としている。

やはり夢だったのか。片瀬さんがわたしに唇を当てたりするはずはない。

「ごめんなさい。もう大丈夫。レポートが終わらなくて3日間ほとんど寝られなかったの」

片瀬さんはかすかにほっとしたような、またあきれたような表情をした。

「ああ、そうなの。じゃあなんで来たの」

「本当に迷惑かけてごめんなさい。隆君は?」

わたしは質問に答えずに、謝罪して質問で返した。

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