記憶の中の彼
こんな時間だが、帰宅途中のサラリーマン数名とすれ違った。
おそらく残業か飲み会帰りなのだろう。
コンビニの前では、明るくツンツンとした派手な髪形に、ジャージを着てたばこを吸う若者3~4名がたむろしていた。
確かにこの前を一人で通るのは少々心細いに違いない。
通りの突き当りまで行くと以前のアルバイト後に片瀬さんと別れた枝道に出た。
ここで片瀬さんは後ろを振り返った。
わたしは先ほど家を後にしてからここまで、彼がときどき首を少しだけ回して、周囲を気にしていたことに気付いていた。
「わたしと歩いているところを見られたら、何かまずいの?」
「いや、別に」
「さっきから周りを気にしているみたいだったから」
「いや・・・」
彼の返事は歯切れが悪かった。
家に着いてしまった。
「本当にありがとう。停電のとき、一緒にいさせてくれて助かった」
彼はうんとだけ返してもと来た道の方へ戻っていった。