涙色


「川崎夢羽です。」


まず、名前。


次は、桜嵐のこと。


「私は、桜嵐の元姫です。元姫について、たくさんの噂があると思います。」


大丈夫。


真実を言うだけ。


やってないって。


言うだけだから。


「でも、それは全部嘘です。」


それを聞いて、ざわめく下っ端たち。


「私は、夏目明希ちゃんをいじめていません。」


下っ端たちのざわめきは収まらない。


「今すぐ私を信じるのは無理だと思います。私も、人を信じるのが怖いです。」


一呼吸おいて、また話し出す。


伝えたい言葉を紡ぐ。


「人を信じる前に、また裏切られるんじゃないかって、どうしても考えてしまいます。」


下っ端たちが、息を呑むのがわかった。


「正直、桜嵐を追い出された時から、もう人は信じないようにしようと思いました。」


本当にそう思った。


どうせ裏切られるなら、信じなければいいって。


私は自分が壊れない道を選んだ。


「でも、春輝たちと会って、簡単に覆されました。気づいた時には、もう信じてました。」


会ってまもないのに。


信じないって決めた直後だったのに。


気付いたら信じてた。


「私は、翠嵐の姫になりたいです!信じろとは言いません。でも、私はみんなを信じたいです。」


しっかりと息を吸って、さっきよりも大きな声で。


「私を、翠嵐の姫に、っ仲間に、してください!」


そう言って頭を下げた。

< 66 / 161 >

この作品をシェア

pagetop