涙色
春輝が私の手を掴んだ。
「俺さ、夢羽のこと・・・」
春輝の言葉に私の胸が高鳴る。
ダメ。
やめて。
抑えきれなくなっちゃうから。
「夢羽、ちゃん・・・?」
突然声をかけられた。
その声は、春輝ではない。
もちろん私でもないけれど。
誰だろう?
そう思いながら振り返った。
「ぁ・・・麻結美-Mayumi-さん・・・。」
そこにいたのは、麻結美さん・・・裕磨のお母さんだった。
「っ!」
私は春輝に握られていた手をパッと離した。
私の行動に春輝の顔が歪む。
ごめん。
ごめんね春輝。
いくら心の中で謝ったって春輝には届かない。
「夢羽ちゃん・・・。良かったっ!生きてて・・・」
なんでそんな事言うの?
私のせいで裕磨が死んだのに。
麻結美さんは春輝のことを見て、微笑んだ。
「夢羽ちゃん。もう気遣わなくていいのよ。あの子の事は忘れても「っごめんなさい!!!」・・・え?」
私の口から出た言葉に麻結美さんが目を見開く。
「っごめんなさい!私のせいでっ・・・」
そうだよ。
私のせいなのに、幸せになんてなっちゃいけない。
たくさんの人の人生を狂わせてきたのに。
私だけが幸せなんてダメ。
「もういいのよ。あの子が死んだのは、夢羽ちゃんのせいじゃない。」
「違うっ!私のせいなの・・・っ」
あの日私たちとぶつかった車。
その車を運転していたのは、私のお父さんなの。
でも、麻結美さんはあの人が私の父親だということを知らない。
「もう自分を責めないで。夢羽ちゃんはなにも悪くないのよ。」
私の元に来て、優しくそう言ってくれる麻結美さん。
でも、でも・・・っ。
「違うのっ、あの車の運転手は、私のお父さんなのっ・・・。ごめ、なさいっ!」
ぽろぽろと涙が出てくる。
さっきまで綺麗だった景色は、一瞬で涙色に染まった。
「えっ・・・」
私の言葉に動きが止まった麻結美さん。
そう、だよね。
大切な我が子が、その時付き合っていた子の父親に殺されて。
それなのに私が生きてるんだもんね。
「本当、なの?」
私はコクンと頷いた。
「そんな・・・」
「ごめんっなさいっ!・・・でも、償いにはっ、ならないけれど、これからも裕磨だけだからっ」
これが、私に出来る一番の償い。
「夢羽ちゃん・・・」
「ごめんなさいっ。殺してしまって、ごめんなさいっ」
何度目かわからない"ごめんなさい"。
でも私にはこれしかできなかった。
弱い私はその場から走った。
自分の住んでるマンションに向かって。