町はずれの映画館
1.
*****
西の空、沈みかかっている太陽。その最後の陽が、体育館の屋根を枯れ葉色に見せる時刻。
いわゆるそれは黄昏れ時。なんとなくセンチメルな気分になる。
そんな教室の片隅で、自称『怖いもの好き』の沙織はニヤリと笑った。
「ねぇ、知ってる? A町の外れにある映画館」
微かに肩を竦め、美奈は小首を傾げる。
「A町の外れって、いつも準備中の映画館じゃない?」
美奈は記憶の中を探っりながら呟き、沙織がポッキーを差し出してきたので、それを一本とって口に入れた。
「営業してるかどうかも怪しいって、そんな噂なら知ってるけど」
A町には二つの映画館がある。
一つは、町の商業施設内にある映画館。
最新作や3D映画などの新しいものは、ほとんどこの映画館で見れる。
加えて、最近改築された広いシアターは、新しいもの好きの若者にかなりの評判を呼んでいた。
立地的に駅前からさほど遠くもなく、買い物にも便利なのも人気を誘う要因なのだろう。
片や、町外れにある映画館の歴史は古い。
街中からバスを乗り継いで20分。昔は栄えたのかも知れないが、人足の途絶えた商店街の向こうに、その映画館はあった。
薄汚れた黄色い外壁。お洒落さのかけらもない、シンプルな入口。
亡くなった祖母の家が近所にあったので、美奈は何度か外観だけを見たことがあった。
古臭い映画館はいつも締まっていたが、何故か外に貼られたポスターだけが新しくなって、どこか不思議なそんな空間を作り出していたような記憶もある。
「それがね、毎月28日の夜だけ、営業しているんだって」
「毎月28日?」
だいたいの映画館の映画の日は毎月1日。
サービスデーなどはどこも曜日で決まっているのに、28日と決めたのは何故だろう。
不思議に思いながらもニヤニヤとしている沙織には、まだ話の続きがあるようだった。
「しかも、21時34分から上映されるらしいんだけど」
「うん」
「行かない?」
「はぁ?」
21時半からの上映と言えば、レイトショーである。
この地域の映画館では、18歳以下の入場が禁止されている時刻だ。
間違いなく、高校生の彼女たちだけでは門前払いされるだろう。
「保護者いるし」
「保護者?」
「うちの兄貴」
ニヤニヤとしている沙織に、美奈は何故か背筋を伸ばした。
西の空、沈みかかっている太陽。その最後の陽が、体育館の屋根を枯れ葉色に見せる時刻。
いわゆるそれは黄昏れ時。なんとなくセンチメルな気分になる。
そんな教室の片隅で、自称『怖いもの好き』の沙織はニヤリと笑った。
「ねぇ、知ってる? A町の外れにある映画館」
微かに肩を竦め、美奈は小首を傾げる。
「A町の外れって、いつも準備中の映画館じゃない?」
美奈は記憶の中を探っりながら呟き、沙織がポッキーを差し出してきたので、それを一本とって口に入れた。
「営業してるかどうかも怪しいって、そんな噂なら知ってるけど」
A町には二つの映画館がある。
一つは、町の商業施設内にある映画館。
最新作や3D映画などの新しいものは、ほとんどこの映画館で見れる。
加えて、最近改築された広いシアターは、新しいもの好きの若者にかなりの評判を呼んでいた。
立地的に駅前からさほど遠くもなく、買い物にも便利なのも人気を誘う要因なのだろう。
片や、町外れにある映画館の歴史は古い。
街中からバスを乗り継いで20分。昔は栄えたのかも知れないが、人足の途絶えた商店街の向こうに、その映画館はあった。
薄汚れた黄色い外壁。お洒落さのかけらもない、シンプルな入口。
亡くなった祖母の家が近所にあったので、美奈は何度か外観だけを見たことがあった。
古臭い映画館はいつも締まっていたが、何故か外に貼られたポスターだけが新しくなって、どこか不思議なそんな空間を作り出していたような記憶もある。
「それがね、毎月28日の夜だけ、営業しているんだって」
「毎月28日?」
だいたいの映画館の映画の日は毎月1日。
サービスデーなどはどこも曜日で決まっているのに、28日と決めたのは何故だろう。
不思議に思いながらもニヤニヤとしている沙織には、まだ話の続きがあるようだった。
「しかも、21時34分から上映されるらしいんだけど」
「うん」
「行かない?」
「はぁ?」
21時半からの上映と言えば、レイトショーである。
この地域の映画館では、18歳以下の入場が禁止されている時刻だ。
間違いなく、高校生の彼女たちだけでは門前払いされるだろう。
「保護者いるし」
「保護者?」
「うちの兄貴」
ニヤニヤとしている沙織に、美奈は何故か背筋を伸ばした。
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