町はずれの映画館
 この時間帯はいつもそうなのか、バスには他の乗客はいない。

 にも関わらず、圭は立ったまま窓の外を眺めている。

 何かあるのだろうかと覗いて見ても、窓の外には何もない。

 ただ暗いだけの空間が広がり、車内灯が窓を鏡のように美奈を映し出していた。



「俺ね……」

 ポツリと呟いた圭の声に顔を上げると、鏡のような窓の中で視線が合った。


「面倒な性格しているらしくて」

「はぁ……」


 突然、何の告白だろうか。

 驚いた顔の美奈を見ながら、圭はただ苦笑している。




「どうやら、俺は君の事を好きみたいだよ?」



 言われた瞬間、美奈の頭の中にひしめいた言葉は『冗談でしょう?』である。

 人の告白を笑い飛ばしてしまうほど自分を酷い人間だとは思いたくないが、圭の言葉にはそういうニュアンスが含まれていた。

 何だろうか……まるで他人事のように告白している。



「俺って、いつも好きな人をからかうみたいなんだよね」

「は、はぁ……」

「それでいつも気がついた時には、相手に嫌われていたりするんだけど」

「そうでしょうね」

「まだ修復できそう?」

「…………」


 鏡めいた窓の中で圭は微笑んでいる。それを見ながら美奈は困り果てていた。


 本気だろうか。

 それとも、またからかっているんだろうか?


「ご、後日じゃ……」

「どうせ沙織に報告かお伺いを立てるつもりだろうから、それは却下」

 即答すれと言う事だろうか。

 眉をしかめた美奈に、圭は肩を竦める。


「どちらにせよ、沙織は賛成すると思うけど」

「どうして、そんなこと解るんですか」

「きっと今回のこれ、お膳立てだろうし」

「お膳立て……?」
< 12 / 13 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop