町はずれの映画館
「ま、観念しなよ。映画の内容は、女子供が好きそうなラブストーリーみたいだから」

 圭は諦めたように近くに貼られたポスターを見ている。

 それがまたカンに障って仕方がない。

「観念って、親父くさいですよね」

「君よりオヤジなのは仕方ないよね。何しろ君はガキなんだから」

 高校生からすれば、24歳の社会人などオヤジの部類だろう。

 そう納得しながらも、圭はムッとしてしまうのも否めない。


「美奈、兄貴! そこで何してるのぉ! 早く行こうよ!」

 彼氏と腕を組みやたらに楽しそうな沙織は、睨み合う二人に対し明らかに空気を読んでいなかった。




「……入るかな」

 先に折れたのは、圭の方。

 肩を竦めるだけで、映画館のガラス扉に手をかける。

 それがまた口惜しいが、関わるだけ虚しい結果に終わるはず。

 美奈の経験上、そう悟っていた。

 ぶつぶつ言いながらぷいっと圭から顔をそらし、遅れながらノロノロとついて行くと、開かれたままの扉に目を丸くして立ち止まる。


「入らないの?」


 開けた扉を押さえている圭に驚いた。

 沙織たちはさっさと館内に入って待っている。圭もそうだろうと思っていたから驚いた。


「帰るなら閉めるよ」

 扉から手を離しそうな彼に、慌てて美奈はロビーに足を踏み入れる。


「…………」


 館内は、思っていたより清潔そうだった。

 薄暗くはあったが、それに照らされた落ち着いた色合いの壁。赤く見える絨毯は、思っていた以上にふかふかしている。

 荒んだ感じは一切無くて、怖い感じはしなかった。
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