町はずれの映画館
「いらっしゃいませ。何名さまですか?」

 館内を見渡していた美奈は、その声に文字通り飛び上がる。

 振り返ると扉の真横にカウンターがあって、映画館の制服なのだろう、紺色のベストに白いブラウスを着た女性が座っていた。

 その隣りには、申し訳程度のガラスケースが置いてある。下町の定食屋にでもありそうな簡素なガラスケースの中には、上映中の映画のパンフレットが置いてあるらしい。

 そして狭い廊下に並べられた飲み物の自動販売機。

 それをぼんやりと眺めていたら、

「大人4名」

 圭がそう言って、上着のポケットに手を入れるのを美奈は慌てて止めた。


「じ、自分の分くらい払う……」

「こういう時は、ありがたくおごられていた方がいいよ」

 あっさりと圭は支払いを済ませ4枚分の半券を受け取ると、何も言わずに自動販売機の方に歩いて行く。


「沙織。取りに来て」

「サンキュー兄貴」

 沙織はニヤニヤしながら、ジュースを選ぶ圭を見上げた。


「お小遣いピンチだったんだ。さすが持つべきものは兄貴だね」

「おだてても、これ以上は何も出ないよ」

「えー。晩御飯はぁ?」

 兄妹は、気楽な調子で言い合っている。

 美奈としては、晩御飯くらいは心穏やかに食べたいと思った。思いながらも、促されて場内に入る。

 そこも思っていた以上に広い。

 思っていた以上……だから、新しい方の映画館とは比べられないが、30人くらいは入れそうである。

 閑散としていたロビーとは違い、席にはそこそこ人が座っていた。

 皆、怖いもの見たさで集まっているんだろうか……。
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