徒花と蝶
…今、その話は本当に止めて欲しかった。
その場にいた父も、何も聞かなかった。
…まあ、よく思って失恋して帰って来たのかとしか思わなかったかもしれないけれど。
それなら、まだ可愛い。
…けど私は、…それだけじゃない。
けれど、私は両親にそれを言うつもりはなかった。
母がその空気を拭うかのように、「葵【あおい】、味噌切らしちゃったから買って来てくれない?」と葵に言う。
けれど、案の定「暑い」と言って動こうとはしなかった。
本当に葵は、と言うお母さんに、『いいよ、私買ってくる』と言って腰を上げた。
そして、某有名ブランドのカバンを持つ。
すると、
「今帰ってきたばかりじゃない、悪いわよ」
「いいよ、動くことには慣れてるから。味噌だけ?」
「…じゃあ、味噌とお豆腐買って来て頂戴」
「分かった」
半ば強引に私はそう言って、再び家を出た。