徒花と蝶
実家までタクシーで行こうか、歩いて行こうか。
どうしようか迷っていた。
すると、
「……花楓【かえで】?」
背後から声がした。
振り返ると、懐かしい顔があった。
「…祐輔【ゆうすけ】」
スーツを身にまとった彼は、同じ電車だったのだろう。
改札から出てきたところだった。
結構長い期間こっちにいるから、もしかしたら会うかなとは思っていたけれど、帰ってきて早々会うとは思わなかった。
「久しぶり」
「…久しぶり、だね」
彼は、…私の幼なじみで、初めての彼氏だ。
高校卒業後は全く会っていなかった。
しいて言えば、成人式の後の同窓会で私が一方的に彼を見ただけ。
それだけ会っていないのに、よく私に気付いたなと思ったのは言うまでもない。
…ちゃんと“会った”と言えるのは、高校の卒業式の後ぐらいだろう。
今でも私は思い出せる。
…色褪せることのない、幸せだった日々たち。