徒花と蝶




すると、「姉貴!」という声が聞こえた。

後ろを振り返ると、自転車に乗った葵がいた。
出たくないと言っていた葵が、家にいた時のままの格好で自転車に乗ってこちらに向かってくる。



「どうしたの、もしかして買い忘れ?」



と聞けば、ムスッとして自転車から降り、隣を歩く我が弟。



「…遅いから、道草食ってんじゃないかと思って」



そう言う弟に、私は思わず笑みが零れたのは言うまでもない。



「誰が道草食ってるですって?」
「…いや、」
「まあでも、…ありがとう」



きっといつもの私なら、そんなこと言わない。

『私に向かって何言ってるの?』と言っていただろう。

でも、…そんな葵の優しさが今の私には酷く優しすぎて。
少しだけ、泣きそうになった。

こんな私にも、心配してくれる人がいる。
そんな事実が嬉しかった。



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