徒花と蝶
「…さ、早く帰ろう。お母さん待ってるし」
私は少し歩くペースを上げる。
すると、
「…何かあったんだろ、姉貴」
葵が真剣な声で言う。
けれど、『何にも』と言って歩みを進める。
ねえ、葵。
世の中には知らなくていいことがあるんだよ。
だから、お願い。
「…あね―――」
「…大きくなったね、葵」
「は?」
何言ってんの、姉貴と言うような顔で私を見る。
葵の言葉の先が、分かっていたから。
私は遮った。