徒花と蝶
勿論、私だって付き合っていた頃は、私が祐輔の家に遊びに行ったこともあるし、食事に呼ばれたこともある。
逆に、祐輔がうちに来たこともあるし。
だから別に、おかしな話じゃないと言うことは分かっている。
でも、……心の中の霧が、晴れなかった。
私は『そう』と言って、中に入ろうとした。
すると、母が私を呼び止め、エプロンのポケットから千円札を出した。
「これくらい、いいよ」
「でも…」
「…私だって、それなりに稼いでるから」
すると、母は少し困ったように笑った。
可愛らしくない言い方だなと自分でも思った。
自分でも思うんだ。
母が思わないはずがない。
きっと、こんな可愛らしくない私だから、……愛想を尽かされるんだ。
「それより、私の部屋ってそのまま?」
「そうよ」
「じゃあ、私2階に行ってるから」
「え?」
母は『どうして?』と言う顔をした。
「葵の彼女、来てるんでしょう?」
「そうだけど」
「私は他人じゃない。だから、気にするでしょう」
「そんなことないわよ、きっと花楓も気に入ると思うわよ」
『可愛らしい子だから』と言う母にイライラしたのは言うまでもない。