徒花と蝶




「帰省か?」
「うん」
「いいな、都会の会社は早いんだな」
「有給使ったの」



そうなんだ、と彼は言った。


私は一番彼に会いたくなかった。
……どうして、帰ってきて早々会ってしまうんだろう。



「祐輔は?仕事中?」
「いや、ちょっと野暮用をしに学校に行ってて、その帰り」
「…そっか」



学生時代、彼はサッカーをやっていた。
大学も続けるんだとばかり思っていたけれど、彼は続けると言う選択はしなかった。

『高校教師になりたい』と言って、地元の大学の教育学部に進学した。
そして教員免許を取り、採用試験も一発合格で教師になるという夢を実現させた。

本当に、彼はすごいと思う。
……私なんかとは大違いだ。


私は『じゃあね』と言って去ろうとしたけれど、彼が引き留めた。
『時間があるならせっかくだし、話そう』と。
私は二つ返事で頷いていた。



< 3 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop