徒花と蝶
それは、突然だった。
<…岸田さん、ですか?>
深夜2時。
突然掛かってきた、上司からの電話。
心が躍った。
約束もしていないのに、電話だなんて。
でも、嬉しすぎるような声をしないように心掛けて、至って平常を保って出た。
すると、その声だ。
平常心が一気に焦りに変わった。
…彼は私を“岸田さん”とは呼ばない。
会社“では”岸田と呼び捨てだ。
どうして秀人さんの携帯から、女の声がするの。
けれどそう思うことすら私には、間違っていることもちゃんと知っていた。