徒花と蝶
<夜分遅くにごめんなさい。それに驚かせてしまって…重ね重ね本当にごめんなさい>
謝るのは、止めて欲しい。
まだ、何も言われてはいないのに、罪悪感でいっぱいだった。
でも、ついにこの時がきたのかと。
私は思ったよりも自分を保てていた。
『この携帯、冴島さんの物ですよね?あなたは誰ですか?』なんて聞かなくたって分かる。
それにこんな真夜中だ。
<…私、…冴島の妻、です>
それ以外、何があると言うのだろうか。
『冴島の妻』それはつまり、冴島さんの奥さん…リサさんだ。
よく、冴島さんが寝言で“リサ”と言っているからきっと間違いない。
<冴島が、入浴しているのでその間にお電話させていただいていて…>
少し枯れた声はきっと。
そんな野暮な思考は捨てた。
…夫婦なんだから、それが当たり前だ。