徒花と蝶




冴島さんは確かに愛してくれた。

一時でも、愛を囁いてくれた。


でも、どんなに偽りの愛を囁いてはくれても、“私”を見てくれたことはなかった。

……絶対に“いかなることの後”でも、たとえ深夜になったとしても。
家には必ず帰っていた。


それに、冴島さんを“秀人”と呼んでいいのは、リサさんただ一人だと言うことにどうして気付かないの?

いかに大事にされているのか、リサさんは気付いていない。


それは、…あなたがちゃんと彼と向き合わなかったからじゃないの?

そう思った。
けど、言えなかった。

電話越しの彼女の声は、今でも消えてしまいそうだったから。



<こんなに一人の女性と関係を持つのは、初めてなんです>



『だから私は耐えられない』と嗚咽を漏らしながら言う彼女に、私は何も言えなかった。

……こういう事態を引き起こしたのは私だから。


なのに、私は別れて欲しいと思ってる。




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