徒花と蝶
「初めまして、葵の姉の花楓です」
と普段使いのビジネススマイルを炸裂させた。
葵や父は明らかに嫌そうな顔をしたけれど、普段の私を知らない葵の彼女は、『本当に葵のお姉さんなの?!すっごく大人!』とテンションを上げていた。
所詮田舎の女子大生だ。
外向けの笑みさえ浮かべとけば、適当にあしらえるだろう。
たかだか1時間未満の食事の場。
それさえ我慢すれば、解放される。
普段の上司たちの相手をするよりはマシだ。
そう言い聞かせて、私はキッチンの方に向かう。
母が持っていこうとしていたサバの煮付けを『持っていくよ』と受け取って、父から配膳していく。
すると、
「奈々ちゃん、尻尾がいいんだろう?こちらと変えてあげよう」
私はその言葉に驚いた。
あの厳しかった父からは想像もできなかった。