徒花と蝶
サンマの小骨でさえ、『綺麗に食べろ』そう言って、綺麗に食べるまで席を立たせてくれなかったあの父とは思えなかった。
そしてその彼女も『ありがとうございますぅ!』なんて言っている。
……何なの、この家。
そう思ったのは言うまでもない。
私はキッチンに戻ると、母が
「もう大丈夫よ、ありがとう花楓」
母だけが何となく、私に対して気を使っているような、そんな感じで。
その温かさに、泣きたくなった。
その空いている席に座ろうとすると、母が『花楓は父さんの横に座って』と言う。
けれど、私はここでいいと言った。
そして、無言を貫こうとしているのに、葵の彼女が私に声をかけまくる。
「お姉さん、どこの大学出身なんですか?」
「K大学よ」
「えーっ!すごい!葵から法学部だったとは聞いていたんですけど、K大の法学だなんて!」
「そんな褒められるほどのことじゃないわ」
「いやいや!私は絶対に門前払いですから!」
ついに私の堪忍袋の緒が切れた。
「…努力さえすれば、学歴ごとき簡単に手に入るわ」
小さく呟いたその言葉を、彼女は聞き取れなかったのだろう。
だから、『ああ、ごめんなさい。何でもないの』と言って笑う。