徒花と蝶




「じゃあ何で私が東京に行くって言った時…!」

「だって、全国模試で上位に入るぐらい優秀な人間が、こんな田舎で埋もれるなんて勿体ないだろ?…俺は、東京の大学にできるなら行きたかった。けど、…ダメだったから」



その言葉に、ハッとした。

そうだ、…忘れていた。


祐輔と一緒に東京の大学に行こうって言って、毎日遅くまで学校やファミレス、図書館で勉強した。

テスト前になったら、お互いの家に泊まって一夜漬けをして、内申を落とさないようにしていた。


…それは、私に合わせてもらっていたからじゃない。

学力では到底入ることができない、教育系としては最高峰の東京の大学を受験する、祐輔のためだった。



「俺、本気で花楓と東京に行くつもりだった。金銭的な面もあって、親に反対されてさ。第一志望の○○大に入ったら、面倒見てやるって。第一志望以外は地元じゃないと金は出さないって言われてたんだ」



けれど、…祐輔は落ちてしまった。



「花楓に『東京に行け』って言ったのも、受かったのにその切符を捨てて欲しくなかった。…花楓が俺にどういう答えを求めていたのかも分かっていたのに」



なのに、私はそんなことも忘れて。



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