徒花と蝶




すると、2コール目で出た冴島さん。



<…岸田?>
「はい、夜分遅くに申し訳ありません。…冴島さん」
<何の用だ>



そう冷たい声で言う、冴島さんの様子に、きっと近くにリサさんがいるのだと悟った。

微かにだが、リサさんが嗚咽を漏らしながら泣く声も聞こえてきて。



「今日は、お別れを言おうと思ってお電話させて頂きました」
<…>
「…リサさんにも、聞いていただきたいんです。スピーカーにしてもらえますか?」
<何を言ってる、>
「リサさんには知る権利があります。それにもう、私はリサさんに知っていてもらいたいんです」



私のその言葉に、冴島さんは何も言わなかった。
そして、電話の向こうから、『岸田からで、…リサにも聞いてもらいたいと言っているんだが、スピーカーにしてもいいか?』と尋ねている声が微かに聞こえてきた。


ああ、こんな声。
私は聞いたことない。



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