徒花と蝶
「私ね、不倫していたの」
「…」
「今回帰ってきたのも、それが理由。しかも、…その人に『帰れ』って言われたの」
祐輔は、何も言わなかった。
いや。
“言えなかった”の方が合っているのかもしれない。
…こんなヘビーな話に、同調なんて軽々しくできないだろう。
…それに、祐輔ならきっと。
真面目な祐輔はきっと、私を軽蔑するだろう。
こんな奴と付き合っていたのかって、きっと後悔するだろう。
分かっていたから、…言いたくなかった。
できるなら、母にも言いたくなかった。
誰にも、言いたくなかったのに。
私の弱さが、口を開いてしまった。
「初めは知らなかったの、結婚していること。仕事場には、結婚指輪をしてこない人だったから」
初めて知った時は、絶望感しかなかったなと思い出す。
…それでも、その関係を望んだのは紛れもない、私だ。