徒花と蝶
私は、『じゃあ、控室行ってくるわ』と言って、私の前から立ち去ろうとする祐輔を呼び止めた。
すると、振り返る彼。
私は、言おうと思っていた言葉をぐっと抑えた。
「祐輔、おめでとう」
「…ありがとう」
「幸せにならないと、花楓様が怒るからね!」
私がそう言うと、彼は少し泣きそうな顔で『サンキュ』と言った。
私が、少し動揺した表情を浮かべれば、彼もハッとした様子で。
…けれど私は再び笑った。
『私は気付いていない』と。
そう言い表すように。
彼は、苦笑いをした。
…ああ、気付きたくなかった。