愛すれど…愛ゆえに…
1、雑誌がもたらした奇妙な縁
私の名前は愛羽伊吹(あいばいぶき)。
結婚願望ありありの26歳、蟹座。
職業は保育士をしている。
彼氏いない歴は3年半。
休日の過ごし方は心置きなく楽しめる親友と、
合コン話に花を咲かせること。
この世のどこかに、
私のアダムはきっといると信じている。
沙都莉「ちょっとイブ!いつまでむくれてんのよ。
いい加減機嫌直したら?」
伊吹 「だって!
聞いた?あのふてぶてしい態度。
年はひとつしか変わらないのに完全おやじ化してる。
性格屈折してる!
人を完全にばかにしてるー!
あんなやつ、男の魅力ゼロよ!」
沙都莉「そうねー。
確かにイブの言うとおり、あれじゃモテないわね。
私も完全にストライクゾーンを外れてる。
やっぱり外見内面ともに洗練された男性がいいわ。
私もパス」
この子は春乃沙都莉(はるのさとり)。
旅行代理店勤務の26歳の獅子座。
高校から一緒の大親友で、世界を渡り歩くアクティブ娘。
私にはない感性を持っていて、
同じ年だけど憧れの女性でもある。
伊吹 「でしょー?
さすが沙都ちゃん。男を見る目あるー」
姫奈 「へーっ。そう?
私は無茶タイプー」
伊吹・沙都莉「えっ!!」
そしてひとり不気味な微笑みを浮かべてるこの子は、
矢木姫奈(やぎ ひめな)。26歳、山羊座。
職業は栄養士で専門学校勤務。
私のもう一人の大親友で、彼女とは中学からの仲なの。
一見とてもお淑やかで温厚なんだけど、
頭脳明晰で女ながら中学の時についたあだ名が“型破り博士”
私も沙都ちゃんも、いつも彼女の意外な一言に驚かされてる。
姫奈 「彼、博識があって冷静沈着で、
眼鏡の奥にある瞳は高貴な精神を漂わせてるわ」
伊吹 「は?……あれが?」
沙都莉「ふーん(笑)
姫ちゃんは彼みたいなのがタイプなんだ」
姫奈 「え、ええ。まぁ(照)
できればお近づきになれたらいいんだけどね」
伊吹 「姫ー!
あんた、何血迷ったこと言ってんの!
目を覚ましな!」
沙都莉「イブったら。これ、落ち着け」
伊吹 「あいつに会って姫までおかしくなっちゃって。
もうこうなったら今夜は居酒屋の梯子よ。
ヤケ酒よー!」
姫の両肩を掴みっている私を宥める沙都ちゃん。
へんてこな合コンを終えた私たちは、
夜の繁華街を蛇行しながら歩く。
私がここまでエキサイトするキッカケは今日の昼始まった。
私達3人は、11時半に新宿で待ち合わせ、
いつも行くフレンチレストランで普段通りランチをした。
その時、沙都ちゃんが持ち込んだフリー雑誌に載っていた、
ある伝言メッセージを見つけたのだ。
『我こそは美女!我こそは恋愛体質!
我こそは賢く一途!と豪語し、
気に入った男は絶対に落とせる自信がある!
という勇気ある女性を求む。
条件が合えば即合コンあり。
募集条件……都内住みの女性3名。
お気軽にご連絡を!
090-〇〇〇〇ー××××
テンドウ ナイト』
姫奈 「何。この変な記事」
伊吹 「こんなの。
どうせふざけて載せたのよ。
誠実な男性なら絶対にしないわ、こんなこと。
それにテンドウ ナイトだって。
これだって本名じゃないだろうしね」
沙都莉「そうかもしれないけど、ちょっと面白そうじゃない。
こうやって雑誌にまで載せるくらいなんだから、
案外すごいイケメンかもだし。
世の女性たちから見向きもされなくて載せてるなら、
私たちがボランティアして救済しなきゃね」
姫奈 「こういうの、ボランティアっていうのかな」
沙都莉「気持ちの問題ってことよ。
私たちがどんな男性なのか、吟味してあげようじゃない」
伊吹 「そうかもだけど。
こういうの姫は苦手でしょ」
姫奈 「んー。ボランティアなんでしょ?
意外に面白いかも」
伊吹 「へっ」
姫奈 「興味深い研究データが見つかるかもしれないわ」
伊吹 「えっ」
沙都莉「よしっ!多数決により決まりー。
そうと決まれば、早速連絡連絡」
伊吹 「えーっ!?」
何故か目を引いた文章に、
御ふざけ半分で連絡してみようということとなった。
沙都ちゃんの携帯からメッセージの人物、
“テンドウ ナイト”という男性に連絡をする。
3回コールの後、
「もしもし」と低く渋い声が彼女の耳に聞こえてきた。
私と姫はその様子を息を殺し見守る。
数十分話すうちに相手と意気投合したようで、
電話を切ると私たちの写メを送ると言う。
沙都ちゃんは手際よくメールを送った。
するとすぐ向こうからも写メが届いて交渉は成立する。
そんな突飛な出来事があり、
男3人女3人の前代未聞の異質合コンが始まった。
それは、今から2時間半前のこと……
(東京都新宿、とある居酒屋の個室)
店員に通された個室に入ると男性が3人居て、
私たちはさらりと流すように顔を確認する。
すると「どうぞ、座って」と、
真ん中に座っていた男性から促される。
「失礼します」と会釈しながら靴を脱ぎ、
私は沙都ちゃんを真ん中にして彼女の右側に座った。
そして座り直すふりをして小声で話しかける。
伊吹 「ねねっ」
沙都莉「ん?」
伊吹 「みんな、意外とイケメンじゃない」
沙都莉「そうね。想像してたよりイケてるかも」
騎士 「えっと。
僕が伝言メッセージを書いた、
天童騎士(てんどうないと)と言います。
漢字で書くと白馬の騎士”の騎士って書いてナイトね。
これは母がつけた名前で、
イギリスの“アーサー王物語”が好きだったらしくてね」
伊吹・沙都莉「はあ……」
騎士 「それから、僕の右隣にいるのは高野悠大(こうやゆうだい)。
そして左隣が仁木向琉(にきあたる)。
僕たちは君たちよりひとつ上の27歳。
彼女募集中の野郎3人です。よろしく。
僕を呼ぶときはナイトでいいからね」
悠大 「俺のことをみんなはユウって呼ぶけど、
ゆうだいでも君たちの言いやすいほうでいいよ」
向琉 「僕はニキでいいです」
伊吹 「ナイトさんにユウさんにニキさんね。
よろしくお願いします。
(騎士でナイトかぁ。性格もナイトなのかしら)」
姫奈 「よろしくです」
沙都莉「私はお電話した春野沙都莉と言います。
そして私の右隣に座ってるのは愛羽伊吹で、
左に居るのが仁木姫奈です。
よろしく」
騎士 「よろしく」
向琉 「どーも」
悠大 「よろしくね。
伊吹ちゃんって良い名前だな。
しかもイメージ通りっていうか」
伊吹 「はぁ(照)ありがとう……」
騎士 「写メ見せてもらったけど、実物のほうが3人とも美人だね。
なんだかこうやって面と向かって話すと、どきっとしちゃうよ」
沙都莉「そう?
じゃあ、私たちって雑誌のメッセージ通りで、
あなたたちを落とせた女ってことね」
騎士 「さぁ、それはどうかなぁー。
ここに居る3人全員落とせればだけどね」
沙都莉「へぇー。
ニキさんは理想が高いとか、好みにうるさいとか?」
向琉 「……」
騎士 「まぁ、ある意味そうだね。
僕やユウと比べて彼は個性的だし」
悠大 「俺はアダムと違って、気にいったらとりあえず行動だから。
ねっ、伊吹ちゃん」
向琉 「アダム言うな」
伊吹 「えっ!え、ええ。
(アダム?彼、アダムっていうの……)」
騎士 「みんな好きなタイプは?
はい、姫奈さんから順番に言ってみて」
姫奈 「はぁ。私は、誠実で知性があって、
何に対しても禁欲的で追求する人ですね」
悠大 「追求?仕事に対してストイックとかってこと?
それとも趣味とか?」
姫奈 「どちらもあれば尚いいです」
騎士 「へぇー。沙都莉さんは?」
沙都莉「私はアクティブで、自分をしっかりと持ってる人かな。
一緒に海外旅行に行ってくれるような人ならサイコーね」
騎士 「そうなんだ。じゃあ、伊吹さんは?」
伊吹 「私は……フィーリングかな。
初めて会った時、目を見て“この人だ”って感じる人かな」
騎士 「目を見て?」
伊吹 「ええ。
性格や住む世界やお互い目指す目標が違ってても、
何か一つだけふたりで高めあえて共感できるものがあればいい。
それが楽器でも家庭菜園でも絵を描くことでもいいの。
もちろんそこには、尊敬と信頼と愛情を感じなきゃだけどね」
騎士 「へーっ。それは変わってるね。
僕ら、あのメッセージを雑誌に載せてから、
いろんな女性に会って好みを聞いたんだ。
みんな高学歴で高収入がいいとか、
肉食系で背は高いほうがいいとか、
条件を並べ立てる子ばかりだったけど、
君たちみたいな女性は初めてだな」
伊吹 「だって。条件って常に変わるのよ。
条件で選んで自分の理想100点に近い高得点を得たとしても、
もし何かで条件が変わってしまったら気持ちまで変わるの?
人を自分の物差しで測って蹴るようなこと、私にはできない。
“金子みすず”の詩と同じで『みんな違ってみんないい』よ。
あれはダメ、これはダメって、言われたら嫌じゃない」
悠大 「確かにそうだね。
俺のこと知ってから言ってほしいと思うよな」
伊吹 「学歴とか収入っていう条件って、その人そのものじゃない。
条件はその人が自分の人生を生きるための、
付属パーツみたいなものだと思うの。
それは確かに社会で戦うためには必要だけど、
いろんなパーツのついた鎧は自助努力で、
どんどん変えていくことができるわ。
だけどその鎧の中身の人間が、どれだけの魅力を備えている人で、
どれだけ自分が魅かれ欲することのできる人なのかが大事だと思うの。
本当に人を好きになるって、
そういう感覚を大切にすることじゃないかしら」
騎士 「語るねー。
だからフィーリングを大切にするんだ」
伊吹 「ええ。
他の女性はどうかわからないけど、私はね。
直感を信じてるし、
初めに感じた感覚を無視すると失敗することが多いのよ」
向琉 「パーツ?ガンダムのモビルスーツと同じか?」
悠大 「なんか……伊吹ちゃんってすごいな。
しっかり自分を持ってて、説得力があってストレートでいい!
もしかして職業はカウンセラー?」
伊吹 「私は幼稚園の先生よ」
悠大 「幼稚園の先生かぁー」
沙都莉「私たち3人はいつも相手の本質をみて、
違いも欠点も受け止めるようにしてるの。
減点法の恋愛をしてたら良い関係にはならないわ。
加点法の恋愛しなきゃ。
その人の欠点も愛せなかったら一緒には居られないもの」
騎士 「それはすばらしい。
なかなか知りごたえのある女性たちだな。
気に入った!
これも何かの縁で知り合えたんだと思うから、
まずは友達から付き合っていこうよ」
沙都莉「そうね。是非」
悠大 「伊吹ちゃん、よろしくー」
伊吹 「うん。よろしく」
お刺身をつつきながらお酒を酌み交しそんな恋話をしていると、
あつあつの土鍋と食材の入った大皿が届けられる。
私たち6人は具材豊富で、
白い湯気のたった水炊きを囲みながら話の続きをした。
席替えをして、楽しい雰囲気で盛り上がっていた私達だったけど、
ある人の一言で空気は一変する。
そう。仁木向琉(にきあたる)の言葉で!