愛すれど…愛ゆえに…
11、ジェラシーバトルの始まり

私とニキさんがお台場で鴻美さんのことを話していた頃。
ナイトさんの自宅では、ニキさんの伝言を聞いたユウさんが激怒し、
事実をまだ受け止められない姫は、
沙都ちゃんに宥められながら泣いていた。


騎士 「アダムはお前に伊吹ちゃんを渡したくないそうだ」
悠大 「はぁ!?アイツのその言葉だけで俺が納得すると思うか!?
   どう考えたって奴のやってることは卑怯だろうが!」
騎士 「僕もそう思う。
   でも、アダムにはアダムの想いがあってのことだろうから」
悠大 「なんだ。
   じゃあ、ナイトもアイツのやってることに肩を持つ気か」
騎士 「そうじゃない」
悠大 「自分も伊吹ちゃんを好きになったから渡したくない!?
   ふん。そんな子供じみた理由で、
   しかもこんな形で親友を裏切ってもいいってか!」
騎士 「ユウ!ちょっと落ち着けよ。
   お互いの意見を聞かないと、何とも言えないって言ってるんだ。
   あの、堅物で四角張った男が、こんな大胆なことするには、
   何か僕たちにも言えない訳があるんじゃないかと思うからだ」
悠大 「アダムは後でここに来るんだな」
騎士 「ああ」
悠大 「だったらアイツの理由とやらを聞こうじゃないか。
   でも、どんな理由があろうと俺は今回のことを許す気はない。
   そんな理不尽な一言で彼女を諦められるか!
   姫ちゃんだってこの真相を知りたいだろう!?
   アダムがどんな言い訳をするか一緒に聞こうじゃないか!」
姫奈 「私は。私は……」
沙都莉「ユウさん。姫は今この状況を理解するっていうことよりも、
   親友の伊吹に裏切られた感の方が強いから、
   とても話し合いには参加できないと思う。
   むしろここに居ない方がいいと私は思うわ」
悠大 「そうだな……」
沙都莉「ナイト。さっき話したように、
   私は姫と外で少し話して家まで送ってくるから」
騎士 「うん、頼むよ。またここに戻ってくるんだろ?」
沙都莉「ええ。まだ伊吹もいるからね。
   私もナイトと同じ立場だし」
騎士 「気をつけてな」
沙都莉「うん」


憤慨するユウさんに泣きじゃくる姫、
そして板挟みのナイトさん。
この3人からすれば、降って湧いたような話なのだから無理もない。
何と言っても私がいちばんこの展開に戸惑いを感じている。
けれど、当事者のニキさんがいないのに話は進められないと、
ユウさんが断固ニキさんと決着をつけると言い張ったことで、
ナイトさんはニキさんをここへ呼ぶために再び電話する。
姫をひとりでこの状態のまま帰すことに不安を感じる沙都ちゃんは、
彼女の自宅まで連れて帰ることにしてナイトさんの家を出る。
明らかにこの3人とは違ってたのは沙都ちゃん。
私がニキさんとのことを少し相談してたからか、
彼女はこの争いが起きることを前々から予感していて、
その旨をナイトさんに話していた。
密かに2人して私と姫のことを気にかけてくれていたのだ。

動物園事件をきっかけに、
確実に私たちの友人関係に暗雲が立ち込めている。
そんなことが起きているとは想像もしてない私は、
1時間後、
ニキさんと共に千代田区にあるナイトさんの自宅に向かった。


(東京千代田区、騎士の自宅)


伊吹「キャッ!」
悠大「アダム!!お前!俺をなめてんのかっ!
  何年もお前を信じて親友やってきたのに、
  これがお前の本性か!!」
向琉「……」


ナイトさんに通されてニキさんがリビングへ入るなり、
彼の頬に怒り心頭のユウさんの鋭いパンチが、
パチンと言う乾いた音と共にヒットする。
不意を突かれたニキさんはリビングの壁にぶつかりその場に倒れた。
ユウさんは抑え込むように馬乗りになって、
彼の顔や身体を何度も殴っている。
収まらない怒りを込めた罵声とともに……
ニキさんは抵抗することなくユウさんに殴りかかることもなく、
両腕で顔をガードしながら体を丸くする。


私は想像を絶する悲惨な光景を目の当たりにし、
自分のとった軽率な行動で、
ユウさんを傷つけてしまったと知らされる。
オロオロしながら涙ぐみ、震える両手で口を押えて、
リビングの入口に突っ立っていると私の背後からバタンと音がする。
姫を送っていった沙都ちゃんが戻ってきて、
私に近づくと優しく両肩に手を置いた。
私は振り返り、沙都ちゃんの微笑みを見た途端、
溢れだす涙のまま彼女の肩に思い切りしがみつく。



騎士「おいっ!!ユウ!やめろって!」
悠大「なぁ、何とか言えよ。何とか言ってみろ!」
騎士「ユウ!ガキの喧嘩じゃないんだから殴るのはやめろ!
  お前が正しいと思うなら冷静に話し合え」  


ナイトさんは後ろからユウさんの脇を抱えるように引き離し、
尚もニキさんに飛びかかろうとする彼を、
羽交い絞めにして押さえつけ止めた。
その間ニキさんは起き上がらない。
身体をくの字にしてはぁはぁと荒い息遣いをし、
殴られたみぞうちを押えながら時々咳込んでいる。


悠大「渡したくなかったら何しても許されるのか!」
向琉「はぁはぁ……」
悠大「なぁ、アダム。
  お前がどう思ってるのか全部吐き出して言ってみろよ!」
向琉「ほ、惚れたんだ!
  お前に伊吹さんを渡したくなった。
  ただそれだけだ……」
悠大「お前、まだこんなこと言うのか!」
騎士「こらっ!ユウ、やめろって!
  アダム。何があったのか、何故こんなことになったのか、
  僕らに包み隠さずに話してくれないか。
  このままではユウはもちろん、
  僕や沙都莉もお前を理解したくてもできない。
  それはここに居ないけど姫ちゃんも一緒だと思うぞ?」


ニキさんはナイトさんの言葉を聞きながら、
ずっと黙ったまま床に寝そべっている。
私は全面的に自分を悪者にしようとしているその姿が痛々しくて、
見ていられなくなって、
沙都ちゃんから離れ涙を拭いながら話しだした。
でも、事実を話すということは、
冬季也さんへの想いも必然的に話すということで、
ユウさんやナイトさんから軽蔑されてもしまうかもしれない。
だけど、今の私はボロボロになっているニキさんを助けたかった。


伊吹「あの、ナイトさん。
  ユウさんも……」
悠大「……」
騎士「伊吹ちゃんが話してくれるの?」
伊吹「はい……ニキさんの代わりに私が話します。
  ニキさんがユウさんと姫に何も言わずに、
  私を動物園から連れ出したのは、
  私をストーカーから守るためです」
悠大「えっ」
騎士「ストーカー?」
伊吹「はい。最近、私はストーカーに自転車を壊されて、
  自宅まで押しかけられて、
  それからずっとニキさんが守ってくれてるんですよ。
  そのストーカーが今日動物園に居て、私を追いかけてきたから。
  ニキさんがそうしたのは、私の安全のためだけじゃないんです。
  ユウさんや姫のことも考えて、
  2人に理由も告げずに動物園を出たんです。
  だから、ニキさんはユウさんや皆さんを裏切ったわけではなくて、
  こうなったのは全部、私のせいなんです」
騎士「それじゃあ、
  そのストーカー男は伊吹ちゃんを一方的に想っていて、
  動物園まで君を追ってきたってこと?
  それを知ったアダムが君を守ったってことでいいのかな?」
伊吹「いえ。そのストーカーは女性で」
騎士「女性!?」
伊吹「はい。
  私が4年間ずっと好きだった人をストーカーしてた女性です。
  その男性に近づいたことで、私は彼女から恨みを買ってしまって。
  その好きだった人はニキさんのお兄さんの親友で、
  ニキさんが事実を知って、今回のようなことに……」
悠大「好きな人……か。
  俺が告る前から伊吹ちゃんには既にそういう人が居たの」
伊吹「はい……黙っててごめんなさい」
騎士「そうなのか?アダム」
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