愛すれど…愛ゆえに…
ニキさんは姫の携帯を私から受け取ると、
受話ボタンを押し携帯を耳にあてる。
向琉「……」
鴻美『もしもし!姫!?
あんた何やってるの!
事務所にも来てないし。
連絡も寄こさないで仕事ドタキャンする気!?』
向琉「……」
鴻美『ち、ちょっと!
聞いてる!?……
今夜は大御得意さんの相手で、新日本橋に行くんでしょ!
今どこにいるの!?
……姫!?何とか言いなよ!!』
向琉「お前、まだこんなことやってんか」
鴻美『へっ!?……あんた誰!!』
向琉「長い間さんざんお前に痛めつけられた仁木向琉だよ」
鴻美『えっ!?なんであんたが姫の携帯を……
あっ!伊吹の仕業ね!
姫は何処!?
今から迎えに行くから場所を教えなさいよ!』
向琉「なんでお前にそんなこと言わなきゃならない。
姫ちゃんはもうお前にところには帰らないそうだ。
でも、僕はお前に用がある。
だから今から僕がお前に会いに行く」
鴻美『えっ!?用ってな、何よ』
向琉「会って話す」
鴻美『いいわ。でも、それには条件があるわ』
向琉「なんだ。条件って」
鴻美『姫と伊吹、ふたりを連れてきて。
それが条件よ』
向琉「姫ちゃんは行かせない。
それにこのことに一切伊吹さんは関係ない。
僕一人でいくから場所を指定しろ」
鴻美『駄目よ。ふたりを連れてくるなら会うわ』
伊吹「ニキさん、私に来いって言ってるなら行くわ」
向琉「そんなことできるわけないだろ!」
ニキさんは携帯のマイクに手を当てて小さな声で私を諭す。
するとしびれを切らしたユウさんが携帯を引き取り、
怒り露わに鴻美さんに話し出した。
悠大「お前の希望通りにしてやるから、早く場所を言え!」
向琉「ユウ!お前、何勝手に言ってる」
悠大「この女に会って話すんだろうが!」
鴻美『今度は誰よ!男同士の友情ってやつ(笑)
ふん!ヘドが出るわ。
まあ、あんたが誰だろうとどうでもいいわ。
姫と伊吹を連れてくるならね』
悠大「いいから早く言え!どこにいけばいいんだ」
鴻美『いいわ。JR新日本橋駅にある郵便局の駐車場に。
今からよ!いい!?』
悠大「分かった。30分で行く。待ってろ」
鴻美『分かったわ。
絶対二人を連れてきなさいよ。いいわね!』
悠大「ああ」
電話を終えたユウさんは携帯を姫に手渡し、
ニキさんをナイトさんを見ている。
緊迫したやり取りが目の前で繰り広げられ、
沙都ちゃんと私はハラハラしながら見守っていたが、
ユウさんの機転を利かせた行動でこの場を凌げる。
私も沙都ちゃんもホッと胸を撫でおろした。
悠大 「アダム、決まったぞ。
場所はJR新日本橋駅だ」
向琉 「悠大。ほんとに承諾するつもりか」
悠大 「ふん。俺が素直に条件に乗るわけないだろ」
沙都莉「よかったぁ。
本当に姫と伊吹を連れていくのかと思ったわ」
悠大 「まずは約束取り付けないと先に進めないからな」
騎士 「そうだな。
まずは条件をのんで向こうの警戒をとかないと」
悠大 「さぁ!アダム、行くか。
俺もついていくから」
向琉 「えっ?いいよ。僕一人でいってくる」
悠大 「何を言ってる。
交渉術は俺のが上だ。
それに常識の通用しない変な女なんだろ?
相手は一人とは限らんぞ」
向琉 「そうだけど」
伊吹 「私も行くわ!」
向琉・悠大「えっ?」
伊吹 「だって、姫のこと騙して生活や仕事まで駄目にしたのよ。
そんな人を絶対に許せないわ!」
向琉 「そうだけど危険だから、伊吹さんはここに居て待ってて。
ナイト、任せていいか?」
騎士 「ああ、いいぞ。
沙都莉がいるから大丈夫だ。
その代り、二人ではどうもにもならないなら連絡しろよ。
僕もすぐ行くから」
向琉 「ああ」
伊吹 「ねぇ、私は向こうの御指名なんでしょう?
それなら言った方が必ず話は進むわ。
望むところよ。
三人寄ればって、何かのことわざになるくらい強いのよ。
ほ、ほら、毛利元就の“三本の矢”にもあるでしょ?
“三本の矢を束ねると、折ろうとしても容易く折る事は出来ない”って。
それに“三人寄れば文殊の知恵”“三人行えば必ずわが師あり”とか、
“三人いれば笑って暮らせる”とも言うしね」
向琉 「えっ」
沙都莉「伊吹。それは意味が違うでしょ」
向琉 「いや。意味だけじゃなくて」
悠大 「あはははっ(笑)いいじゃん。
よし、伊吹ちゃんも行こう。
俺たちが守ってやるから大丈夫だ」
向琉 「悠大!」
悠大 「友情と天秤にかけるくらい惚れた女だ。
何があっても守れるだろ?」
向琉 「ああ。お前もな」
悠大 「ああ(笑)」
伊吹 「ユウさん……」
沙都莉「ナイト!伊吹が行くなら貴方も行って守って」
騎士 「沙都莉?」
沙都莉「私がここで姫ちゃんを見てるから。
だって……変な人たちと関わってるかもしれないし、
私の大切な親友をこれ以上あの女に傷つけさせないで!
ナイトは騎士(ないと)なんだからみんなを守って無事に帰して」
騎士 「ふっ(笑)分かったよ。
よし、もう時間がない。行こう!」
向琉 「姫ちゃん、この携帯借りるよ」
姫奈 「ええ。みんな、ありがとう。
くれぐれも気をつけてね」
向琉 「ああ(笑)」
結局、私にニキさん、ユウさんにナイトさんと、
4人で鴻美さんに会うことになり、
ニキさんの車に乗り、
新日本橋の待ち合わせ場所に行くこととなったのだ。
それぞれが暗闇の中で感じた“友情”と“愛”というものに突き動かされ、
覚悟を決めて真の“運命”に立ち向かうのだった。
(続く)