君×私×彼
曲がり角を曲がって階段を登って
自分のクラスを目指す
教室のドアを開けると
一番に視界に入ってきたのは
美紗希だった
「おはよう花奈!もう大丈夫なの?めっちゃ心配したんだからね…?」
私は体育祭の日
教室に戻ることは無く
そのまま帰ることになった
家に帰って携帯を見ると
何通もの美紗希からのメッセージが届いていた
『あの後どうなったの?』
『もう平気なの?』
『心配だよ』
『先生から聞いたけど、脚捻挫もしてたんだってね。大丈夫?』
私のことを心配する言葉ばかりで
自然と笑顔になっていた
「おはよう、もう大丈夫だよ」
「あんまり無理しないでね?なんかあったら言うんだよ?」
「ふふっ…ありがとう」
そんなに心配しなくて大丈夫なのに…
でも本当にありがとう
自分の席につき
あの時のことと傷のことを伝えると
美紗希は自分のことのように
泣きそうになりながら話を聴いていた
「でも花奈が無事でなによりだよぉ」
「…泣かないよね?」
「え、泣いちゃダメ?」
「だーめ」
そんなやりとりも楽しくて
二人で笑っていると
クラスの子が何人かやってきて
声をかけてくれた
皆、私のことを心配していたみたい
クラスメイト思いの良い人達で
一組で良かったなぁなんて考えていた
皆がどこかへ行き
また美紗希と二人きりになった時
ふと思い出したかのように話し出した
「そういえばさ…怪我した後、俊に会った?」
「俊に…?ううん、誰とも会ってないよ」
「あれ~?おかしいなぁ…」
どういうこと?
美紗希は何が言いたいんだろう
不思議に思っている美紗希に問いかけた
「どうして、そんなこと聞くの…?」
胸がなんだかザワザワし始めた
俊…
私の…
『彼氏』なんだよね
私が一番に想わないといけない人
だけど私は
君を裏切ったんだ
最低だ
「花奈が先生に運ばれるの俊も見てたんだよ」
どくんっ
見られてた
俊に見られてたんだ
私の顔も見たの…?
「私も保健室行こうとしたら周りの先生に止められて、すぐに競技も再開されて…」
そうだったんだ…
競技を中断させて申し訳なかったけど、
すぐに再開出来たんだ
「でも」
声色が変わった美紗希の声
どんどん速くなる心拍数
「俊が…いなかったの」
いなかった…?
どうして?
俊は騎馬戦に出てたはず…
まさか、こっちへ来てた?
そんな…
まさか、ね
「だから、花奈のとこに行ってるのかと思ったんだけど…。違ったみたいだね」
美紗希が言うには
私が運ばれるのを見ていた俊は
その後の競技にいなかったらしい
俊の代わりに補欠の人が出て
その場はなんとかなったと言っていた
「うん、会ってない…」
そうだ、会ってない
だから来てない
そう自分に言い聞かせた
「てっきりそうだと思ったんだけどなぁ」
美紗希の顔も見れなくなってしまった
この前は先生だったけど
まさか親友の顔まで見ることが出来なくなるなんて
どうしたらいいんだろう
ううん
分かってる
自分が悪いってことは
一番最低な事をしてしまったことも
頭では分かってるんだ
絶対にたどり着いてはいけない答えに
私はたどり着いてしまった
言う?
隠す?
無かったことにする?
あぁ分からないよ
そこでチャイムが鳴った
朝のHRの開始を告げるその音は
私の思考を一時停止させた
美紗希は自分の席へ急いで戻って行く
そして横の席の椅子が引かれる音がした
俊の席だ
今、横を向いたら俊がいる
どんな顔を向けたらいいか分からない
いつもみたいに
「おはよう」って笑顔で言える自信は
これっぽっちも無かった
「おはよう」
でも私がしなければ君がする
変わらない挨拶
いや…
違うかも
今の私には優しくともあたたかいとも
感じられない気がした
これは私の気持ちが変わったから?
それとも君は何かに気づいてしまったの?
無視をすることも出来ず
とりあえず挨拶は返したが
会話は無く、それきりだった
「おはよう皆!そして体育祭お疲れさま!」
柳田先生の声で
はっと顔をあげる
爽やかな笑顔をクラス中に振り撒きながら
体育祭のことを話している
体育祭の結果は準優勝だったと
私は美紗希から聴いていた
悔しがる先生の姿が映る
先生…
私、どうしたらいいか分からない
逃げないって自分で言ったけど
『逃げない』ってなんだろう
もう挫けそうだよ…
視線を送っていると
先生がこっちを見た気がした
慌てて下を見る
また、そらしちゃった…
気づいたかな
膝の上に置いていた手に力が入り
気づいたらスカートごと握っていた
そしてそこへ
雫が落ちた
一滴、二滴…
私、泣いてるんだ
どうして泣いてるかなんて分からない
辛くて、苦しくて、悲しくて?
どれも当てはまらない気がする
何もかも投げ出して
この場から離れたい衝動に襲われた