隣にいたのはあなただった
「いつ来た?」
大輝が先に口を開いた。
「2時過ぎくらいかなぁ。夜ご飯ご馳走になったんだ。カレー美味しかった」
大輝はそっかと微笑んで花火の袋を開ける。そして取り出したのは線香花火。
「どっちが長くもつか勝負な」
そんなありきたりなゲームを始めた大輝はまだ子供だなと思いながら、はいはいと返事をする。
お互い火をつけた。線香花火はゆっくりと丸い塊になっていく。
隣を見ると真剣な表情で線香花火を見守る大輝。
「大輝、息とめてない?!」
「やめろ、話しかけるな」
そう言ってなるべく息をしまいと頑張る大輝。こんな事にも真剣になれるんだから可愛いやつ。

暗い空間の中に浮かび上がる2つの光。まるでこの世界に2人しかいないみたいだった。
パチパチ
綺麗な火花が飛び散る。この時に漂う煙の香りが、改めて夏が来たことを実感させる。
『少なくともお兄ちゃんは家族とは思ってないと思うよってこと』
菜穂ちゃんの言葉が思い浮かんだ。あれはどういう意味だったのだろう。
「ねぇ、大輝って彼女いないの」
「は?!」
大輝の手が大きく揺れて、ぽとりと火が落ちる。私もあまりに大きい声に驚いて、火を落としてしまった。
「何言い出すんだよ急に」
大輝の意外な反応が面白くてたまらない。
「ただいないのかなーと思っただけよ。一緒にお祭り行ってくれる人がいないのは可哀想だなーって」
大輝は不機嫌そうな顔をする。
「それはお前もだろーが」
少しムッとしたが確かにそうだ。
そういえば8月後半に近くの河原で花火大会があったっけ。
「じゃあさ、8月後半にある花火大会一緒に行ってくれる?」
大輝は笑った。
「まぁ、それまでに俺には彼女ができてると思うけどな。もし、もしだぞ?!いなかったら一緒に行ってやる」
そう言って大輝は小指を差し出した。
「絶対できないでしょ!!私と行ってもらうから!!」
私も小指を差し出し指切りの約束をする。ニカッと笑う大輝。私はその笑顔に笑って答える事しかできなかった。
そこへお茶を持った菜穂ちゃんがやって来て言う。
「さて、3人で花火しよ!!」
そうして私たち3人兄妹は仲良く花火を再開した。


私にはこの時、大輝が言った
『彼女ができたら』という言葉に何故胸が締め付けられられたのかわからなかった。いや、わかっていたのかもしれない。でもそれを認めたくなかった。何故なら、私は"家族同然の存在"という肩書きにとらわれていたから。この関係を崩してはいけないと、心の中で怯えていたから。





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