隣にいたのはあなただった
扇風機の前で私はアイスを食べていた。時計は午後2時を指している。夏休みに入ってまだ3日目だったが、遅くに起きて扇風機の前で涼むのが日課になっていた。
「もう、夏休みだからってずっと家にいるのやめなさい。たまには遊んで来なさいよ」
お母さんが和室で洗濯物をたたみながら言った。庭から見えるのは青い空と、さんさんと降り注ぐ太陽。一瞬にして私の表情は曇る。
「嫌だよこんな暑そうな中外に出るの。出かけるにしても駅までが遠すぎる」
私の家の周りには特に大きなショッピングセンターは無い。あるのは畑と田んぼと小さなスーパーだけ。だから大学の子と遊ぶにしても、電車で少し都会に出なければいけない。若者が住むには不便すぎる所だ。
「若いのにだらしないわね~」
「ほっといてよ」
私は冷たいフローリングにゴロンと寝転がった。せっかくの夏休みなのだからゴロゴロしないと損損。そんな事を思っていると、お母さんが何かを思い出したかのように台所に向かった。
「忘れてたわ。この水羊羹、福井の叔父さんが送ってくれたのよ。だいちゃんの所に持って行って来てくれない?」
そう言ってお母さんは水羊羹が入っているであろう袋を、寝転ぶ私の横に置いた。
「え~お母さん行けばいいじゃん」
お母さんは私が言ったことが聞こえていないかのように、再び和室に戻って洗濯物をたたみ始めた。思わず大きなため息をつく。我が家ではお母さんが言うことは絶対なのだ。私はゆっくりと身体を起こして大輝の家に行く用意を始めた。
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